「…ご様子?」

 りいが思わず口を挟むと、超子はかすかにうなずいた。

「魂がどこかにいってしまったようだわ…毎夜ひどく泣くし…」

 超子がくしゃりと表情を歪めた。

 だが、晴明は眉ひとつ動かさない。

 まるで…もとからわかっていたことであるかのように。



「…さあ、晴明」

 超子は唇を引き結んで、晴明に向き直る。

 晴明は頷き、何気ないことのように、さらりと言葉を発した。

 だが、その言葉は…場の空気を凍らせるのに充分だった。

「妹姫様は…超子様とは腹違いですね?」


「…っ!?」

 その場にいる誰もが息を呑んだ。

 ただひとり、晴明だけが涼しい顔をしている。

「…な、何を…」

 なんでも答える、と言った超子も流石に色を失った。


(…?)

 りいは、家人たちの態度をいささか不自然に感じる。

 たしかに、あまり大声で聞くような話題ではない。まして、超子と詮子は、同じく大臣(おとど)の北の方(正妻)の娘と知られている。

 …無礼きわまりないが…だが、腹違いは特段珍しいことでもない。それなのに、ここまで隠そうとすることは過剰にも思えた。

(…あ)

 不意に、思い当たる。

 天一が言っていたこと。

 つまり…詮子の母君はあやかしである、というのか。

 …そして、もしそれを、家人が皆知っているのなら。


「…」

 晴明が、口元だけでうすく微笑んだ。