夏休みを間近に控え、周りは自分が向かうべき道を よりリアルに捉えているというのに、私は相変わらず机にかじりつき、コンクールに向けて 作品の仕上げに取り掛かっていた。時々、本屋と図書館を行き来するのだが、その時は決まって佐野が一緒だった。あれ以来、二人に変わった事は何もなく、あの時の佐野の言葉はすっかり頭から消えていた。

佐野:「ねぇ、今って何書いてるの?」
一ノ瀬:「人生初の恋愛もの(笑)」
佐野:「へぇ~ 初なんだ(笑)」
一ノ瀬:「前から書いてみたいとは思ってたんだけど、何だか書くきっかけがなくて(笑)」
佐野:「そうなんだ」

書く事に没頭しすぎたせいで、気が付くと図書館が閉館しかけている事がよくあった。延々ノートとにらめっこしていたらしい。苦笑いをしながら部屋に戻ると、奈々沢と武田が横になってテレビを見ていた。