「……」

 男は目を眇(すが)め、高い塀を見下ろす。

 塀の中はとても暗く、夜だというのに街灯も無い。

 灰色に塗られた塀の上部に一定距離で設置されている、薄暗いLEDライトだけが中に向かって照らされていた。

 男の手の中にあるグラスには琥珀色の液体が注がれていて、乱雑に割られた氷が浮かんでいる。

 その液体をぐいと飲み干し、ベランダから見える風景と星空を一瞥して部屋に滑り込む。

「!」

 部屋に入ると、リビングテーブルに乗せられた携帯端末が震えていた。

 男はそれに軽く舌打ちをし、乱暴に手に取る。