兄は頭の上まで布団をかぶり

寝たふりをしていた

僕は静かにドアを閉めて兄の布団を

顔が見えるように少しずらした

兄の顔が見えた時僕はその手を

思わず布団から放してしまった

兄は両手で顔を隠し体をこれ以上な

いくらいに丸めて震えていた





「あに…き?」

僕はそう言いかけ言葉を失った

「ダメだよ…見たら」

兄はいつものようにそう言った

「どう…したの?…具合悪いのか」

「ああ…いや」

「…ほんとに話せるの?」

僕は恐る恐る聞いた

「話したくは…ないな」

と兄はゆっくり言った

「でも約束…だから…お前と」

僕は少し躊躇った

話したくないことを聞いていいのか

って

「約束だけど…今じゃなくても」

「今じゃないと…きっと一生お前に

話せないよ」

兄は顔から手を離して僕を見た

母に似た切れ長の大きな瞳が

僕を虚ろに見上げていた

「……」

僕は黙って彼の言葉を待った

緊張で自分の鼓動が聞こえてくる

「…死にたくなった」

兄はそう言うと少し笑った

兄の唐突な言葉に僕はパニックを

起こしそうになった

兄は片手で口もとを押さえながら

話し始めた