綺麗な花畑の中にいた。
 
黄色や赤、青の目の覚めるような美しい色彩に囲まれて。

『黎』
 
花畑を駆け抜ける短い黒髪の少女。

『乃亜』
 
黎は笑顔で前を行く乃亜を追いかける。
 
しかし、追いかけても追いかけても乃亜に追いつくことはなかった。徐々に不安が心に広がっていく。
 
乃亜の姿は消え、花畑も消え、辺りには何もなくなった。残ったのは、恐ろしいくらいの〝黒〟。必死になって明かりを探しても、あるのは吸い込まれそうな暗黒ばかり。

『乃亜?』
 
暗闇を走り、必死になって彼女を探す。
 
突如、全身に痛みが走った。
 
激痛のあまり立っていられなくなり、身体を地面に横たえる。
 
苦痛に顔を歪めていると、目の前に青白い明かりが灯った。
 
痛む身体を押さえながら、その明かりに顔を上げる。
 
青白い光が、人型に陰っている。……誰か、いる?

『…乃亜?』
 
人影が、振り返った。
 
心臓を凍てつく刃で貫かれたかのような衝撃が走る──。

『──!』