十月十七日。

私は飛行機で石垣島へ向かった。
ボーイング七七七―三〇〇。
全幅六〇・九m、全長七三・九m。
座席の前のポケットに入っている雑誌の後の方に、色んな飛行機の型が写真と共に載っていて、そこにサイズが書いてあった。
大きい乗り物だ。

人気歌手の若い女の子の歌がヘッドホンから流れる。
柔らかな歌声。
綿菓子かマシュマロのようだ。
チャンネル七に変えると、ベテラン女性歌手の特集だった。
なんとなく、しばらくそれを聴く。

窓の外に目をやると、晴れ渡って、青い空にたくさんの白い雲が浮かんでいた。
その中を飛行機が飛んでいく。
沖縄へ向かって、飛んでいく。

十月の金曜日。
飛行機にはたくさんの人が乗っていた。
家族旅行の人達あり、恋人同士あり、職場の慰安旅行風の団体あり、ビジネスマンあり、一人旅あり。

こうして一人で飛行機に乗って、遥か遠くの町へ飛んでいくのは、とても心が浮き立つものだ。
うきうきとして、何度も窓の外に目をやり、ああ今飛んでいるのだと確認してしまう。
あと二週間、一週間、三日、明日。
そうやって、今日だ、さあ行こう、ほんとかな、ほんとよね、と出発の日を迎えた。

その日の朝、がたついたアスファルトの道の上をスーツケースでがらがらがら、とこすりながら空港へ向かった。
がらがらという音を聞きながらも、出発はほんとに今日だよね、などと、まだ思っていた。

今夜は焼酎だか泡盛だかを飲みまくるぞ、なんて考えるだけで、もうどきどき、うきうきしていた。
昨日まで追われていた仕事の山も、デスクの上に全部置き去りだ。

台風は九月末に雲を引きずり回しながら、沖縄の南側を通り過ぎて行った。
今年はそれっきり、台風は近づかなかった。
十月になっても、日本から反れて上陸は全くしなかった。
この週末もまずまず大丈夫との天気予報。

嬉しい。

タツヤさんの運転するオープンカーの助手席にでも乗って、星空の下、夜風を浴びて、酔っ払った頭を冷やしたい。
そんな極上の時間があれば…なんて勝手なことを想像していた。

私がタツヤさんと出逢ったのは今年の三月二十八日だった。
約半年前のことだ。