「だから、彼は泣いたのです」


ブゥ……ン、という低いモーター音が耳の中に戻ってきて、

あなたの意識は水底の村から、水槽の並ぶ喫茶店の中へと浮き上がる。


「少女が身を犠牲にして、生贄にしてまで、少年に愛を注いでくれたことに気づいて、泣いたのです」


マスターはそう言って、小さく息を吐いた。


「それで、どうなりました?」


あなたはカップの中で残りわずかになったチャイを一口すすって、


「それで、少年は女の子のいなくなったその村で、
村人たちに受け入れられて、
たくさんの友達に囲まれて、

赤い髪の毛も、ブドウ色の瞳も、桃色の肌も、嘘のように誰も気にしなくなって──幸せに暮らしたんです」


あなたと向かい合ってテーブルについていたイケメンのマスターは、

泣いているような、
笑っているような、

そんな表情で、

テーブルの上のガラスの中でヒレを振るわせている青い魚を見つめている。


「でもね」

そう言ってマスターはテーブルから立ち上がり、カウンターへと歩いていく。


「青い髪の毛をした女の子を失った少年は、どんなにたくさんの友達に囲まれても、心の中にぽっかりと洞穴ができてしまったように満たされなくて、

結局村を出て、都会の人間の中に混ざって暮らすようになりました。

村ではあんなに忌み嫌われた異端の容姿は、笑えることに都会では誰も気にしなかった」


そう語るマスターの髪の毛は染めたように赤くて、

顔や手足はほんのりピンク色をした色白の肌で、

瞳は、店内の間接照明と水槽の灯りに照らされて、ブドウ色に光っている。