浴室に広がる、甘く可愛らしい桃の香り 湯船もほのかに桃色に染まり、手を入れれば、自分の手も桃色に染まっているかのように見える いつまでも見ていたい けれど、それが叶わないことを、彼女── 園村 月子は知っている 逃げ出したい こんな所にいたくない 泣きたくなったが、月子は必死に涙をこらえた 泣いてはいけない 自分は泣く立場ではない 「出なきゃ・・・」 桃色の湯船から手を出して、月子は甘い桃の香りがする浴室を出た