中年男性の車に揺られな
がら、弥嘉は彼にとある提案を持ちかけた。
「――――なのですが、
宜しいでしょうか?」
「しかし、それは……」
「多分大丈夫です」
彼は弥嘉の突飛な提案を
聞いて思わず目を見開い
たが、彼女はそう言って
微笑むだけだった。
***
『どうすっか……なぁ』
冷え切ったコンクリート
の床と冬の潮風が、容赦
なく壱加の体温を奪う。
『縄は……切れないこと
もねぇが、たとえ逃げた
ところでこの体力じゃあ
奴らを確実に撒ける保証
はなさそうだな』
壱加は腕に巻かれた縄を
弛めながら、ぼんやりと
そう考えていた。
『折角能力があっても、
あんな奴らに簡単に捕ま
ってたら世話ねぇよな。
そろそろ俺も潮時か?』
自分が今置かれた状況を
再認識した壱加は、自嘲
気味に力無く笑った。
すると、今までの静寂を
打ち破るかのように突然
辺りが騒がしくなった。
何事かと思い顔を上げた
壱加の目に信じられない
光景が飛び込んできた。
『はぁぁぁ!?何で徹の娘
がこんなところに!?』
壱加は驚きのあまり暫し
体を硬直させていた。