目の前に墓がある。

墓標には『笹原美咲』の名を刻んだ木板が立つ。

当然の事だが、地中に美咲の遺体が眠っている。

俺が埋葬した。

あれから何日経ったのか。

月日の感覚を失いかけた頃に動き出したので、はっきりと分かっていない。

その中でもお吟さんは相変わらずだ。

美咲の死をどう思っているのか。

それを気にする程の余裕はない。

何とか動き始めて美咲を地中に埋めるのだが、辛かった。

しかし、抜け殻だとしても、自分の体が醜い死骸に変わり果てて行く経過を見られたくはないだろう。

だから、誰にも見られる事のない場所で安らいでもらう。

手を合わせて、ちゃんと成仏できるように願う。

俺が巻き込んだも同然だ。

だから、少しでも罪が軽くなるのなら、俺に罰を与えて欲しい。

お経は読めないから、自分の言葉で紡ぎ続ける。

これが終われば、俺はここを離れようと思っている。

自分の気持ちが、お願いを実行出来るという範囲まで来たからだ。

美咲を一人でいさせるには心苦しい。

だが、やろうと思っているのに何もしないでいると、美咲に叱られそうだ。

「ふう」

十分に気持ちを込めると、閉じていた瞳を開く。

「ここからどこへ向おう?」

帰る方法はどこにあるのか。

どこに向ってもテンプルナイツに見つかるというのなら、どこへ行ってもいいというわけだ。

だが、妖魔の村で情報収集をしたいところだ。

「よし」

安全ではないのだが、行かなければ始まらない。

お吟さんには世話になったし、お別れを言おう。

そう思い、傍に建っている木造の大きな一軒家の中に入る。