「ウェーイ」
カフェに入ると、あかりがいつも通りの意味不明(いみふめい)なあいさつをしてきた。
やたらとルートを変えながらここまで来たわけだが、結局何事(けっきょくなにごと)もなく店に到着(とうちゃく)した。もちろん何事もないのが一番だ。
あかりはテーブルの上にパエリアとアイスの皿を()み上げて、ジュースをズルズルとやっている。ディルクはまだ着いていないようだ。
「またこんなに食ったのか……」
向かいの席に腰掛(こしか)けながら俺は言った。ちなみに今日のコスチュームは、ヴィクトリア(ちょう)時代のようなカッコだ。『GOS-LOLI maid』とか言うんだそうだ。
(こし)から自作の(かわ)ベルトでカタナをぶら下げてんのが、全くマッチしてない。
「こんなにって、一皿だけぢゃん」
「一皿ってお前、これ5人前はありそうだぞ」
金属製(きんぞくせい)の皿をカンカン叩きながら言ってやった。
「だって、オーダーしたらこれ出てきたんだもん。スペイン語わかんないしー」
どうやらオーダーを間違えたらしい。まああかりにとっては、何の問題も無かったんだろうが。
あかりは日本語と英語は話せるが、スペイン語は話せない。ちなみに俺は、フランス語と英語と日本語を少し。ディルクはドイツ語と英語とやはり日本語を少し使える。よって俺達が話すときは、日本語か英語だ。
「んで? ディルクは一緒ぢゃないの?」
ジュースをズルズルやりながら聞いてくる。
「ああ、ちょっとな……。ってお前そのズルズルするのやめろ。なんか(きた)ねえ」
「へいへい」
言って、やっとストローから口を(はな)した。
ポケットからミントタブレットを取り出し、口に2(つぶ)(ほう)り込んだところでディルクが店に入ってきた。
「よお」
「ウェーイ」
ディルクは無言(むごん)で軽く手を()げて答える。
俺の横に腰掛けながら、
「問題なかったか?」
「ああ。そっちは?」
「こっちも問題ない」
「そっか」
「何なの? 何かあった系?」
俺はミントを()(くだ)いてから、
「さっきホテルの前で、ちょっと(ねら)われてたっぽいんだよ」
「誰に? ジルがヤるだけヤって捨てた元カノが(やと)ったアサシンとか。マジウケヤバすぎー♪」
「んなわけあるか!」
手を(たた)きながら大笑いするサムライメイドに、全力で否定(ひてい)する。