「なっ…何言ってんのよっ!そんなの絶対むり!絶対バレる!」
まなみは水かきみたいに両手をバタバタさせ、慌てふためいた。
「じゃあ兄貴が家出したこと、正直に話すのか?」
「うっ……」
水かきの動きが止まる。
代わりにブクブクと沈んでいくような、苦しげな表情で固まった。
そんなまなみに、俺は余裕っぽく笑って言った。
「大丈夫、俺に任せとけって」
とりあえず、家に電話。
母さん達にこの計画のことを話し、協力を頼む。
気分はすっかり極秘プロジェクトのリーダーだ。
指令内容――家族ぐるみでまなみの親をだますこと。
嘘をつくのは気がひけるけれど、仕方ない。
まなみが安心して浅田家で生活できるよう、力を尽くすのが俺の役目なのだから。
俺たちが家に到着すると、まなみの両親はリビングのソファから立ち上がり笑顔をこぼした。
「待ってたのよー」
と両手を広げて駆け寄ってくるその女性を見て、びっくりした。
笑うと下がる目尻とか、ちょっと鼻にかかった高い声とか、まなみそっくり。
もし偶然街で見かけていたとしても、この人がまなみの母親だということは、ひと目で分かるんじゃないだろうか。
そんなお母さんの後ろで、小柄な男の人が照れくさそうに髭をいじる。まなみのお父さんだ。
久しぶりの再会に喜ぶ両親とは裏腹に、まなみの表情はガチガチにひきつっていた。
「おっ、お父さんもお母さんも、ひひひ久しぶりー」
思わず笑いかける俺。
おいおい、今何回「ひ」って言った?
ふと見ると、俺の家族たちもみんな笑顔が白々しい。
いかにも嘘ついてます、って表情だ。
大丈夫か?
このプロジェクト。