昨日の金曜日、何をして過ごしたのかちゃんと覚えていない。

たしか朝から学校行って、そのあとはバイト。
いつも通りの一日を送ったはずなのに、俺の記憶は真っ白だ。

――『土曜、空けとけ。出かけるからな』

2日前、一大決心で隣の部屋に投げかけた言葉。

壁越しに返事はなかったけれど、その約束が俺の心をいっぱいにしていた。


そんなわけで、土曜の朝はあっという間にやってきた。

俺が目覚めたのは午前5時。
我ながら早すぎ。
アラームも鳴ってないのにこの時間に起きるって、どうなんだ?

もぞもぞと起き上がりあくびをする俺。

部屋はひんやりとしていて、朝とも夕方ともとれる薄暗さ。

……いっそこれが夕方なら、楽なのかもしれない。
何事もなく、今日一日が過ぎ去ってくれたのなら。

「ダメだ、俺。……すげー気弱になってる」

思わず独り言をもらした。

情けない。
自分からした約束なのに、ちょっと怖くなるなんて。




何度も服を着替えたり髪型を直したりして、やっと用意できたのは午前9時。

まるで初デートに挑む女子みたいだ。

大きく深呼吸し、部屋を出る。

が、隣の部屋のドアを前にして、固まった。

……ここでノックするのも、変だよな?
そろそろ行くぞ、なんて言うのもおかしい気がする。
それ以前にあいつ、ちゃんと約束覚えてんのか?

急に不安になって、廊下で立ちすくむ俺。

するとその気配を察したかのように、ドアがゆっくり開いた。

「ぎゃっ!」

ドアの前で立っていた俺を見て、まなみが発した言葉はまたしてもこれ。

……やっぱり俺、嫌われてんのか?