いつの間にか一ヶ月が経っていた。
その間、バカ兄貴からの連絡は一切なし。
携帯も繋がらないってどういうことだ?
まああいつのことだから、どんな場所でもタフに図々しく生きてるだろうけど。
自分の部屋はなんだか落ち着かなくて、俺は毎晩ベランダに出る。
けど、口笛はもう吹かない。
兄貴を思い出させるあの曲だけは、もう二度と吹かない。
そんな感じで悶々とする日々に嫌気がさして、最近アルバイトをひとつ増やした。
自販機飲料の配送――いや、正確には、その助手なんだけど。
すげー楽なんだ、これが。
ずっと助手席に座ったまま、運転手の話し相手とかしているうちに、時間が過ぎる感じ。
「んでさ、ほっぺたがフワフワでさ、手がちっこくてさ」
運転席に座る先輩が、顔をほころばせて言った。
昨日子供が生まれたばかりらしく、幸せの絶頂にいる先輩。
とにかく誰かに話したくて仕方ないんだろう。
途切れることを知らない口調で、娘の話を助手席の俺に聞かせてくれる。
「で、目元は嫁さん似なんだけけど――」
「“鼻とまゆげは俺にソックリ”、でしょ?」
「あれ?なんで分かった?」
「だってそれ、さっきも言ってましたもん」
先輩は恥ずかしそうに頭を掻いた。
けど、なんだかんだ言って他人の話を聞かされている方が、今の俺には楽だ。
「お前はどうなの?」なんてもし振られたら、答えに困ってしまうだろう。
それが、今の俺。
自分でも嫌になるくらい、もやもやした俺。