テーブルを囲む家族の顔がいっせいにこちらを向く。
兄貴の隣に座っている、見慣れない顔も。

……ビックリした。
正直、めちゃくちゃビックリした。

性格も趣味も、俺とは何ひとつ共通点がないと思っていた兄貴。
なのにまさか女の好みが一緒だなんて。

つまり、兄貴の彼女・まなみは、俺の理想のタイプど真ん中だったってわけ。


「えっと、初めまして。今日からお世話になる、まなみです」

彼女は焦ったような表情で立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。

肩に届かないくらいの短めの髪が揺れて、その軽やかな毛先に思わず見とれてしまう。

無言の俺に、まなみは言葉を続けた。

「あの、私、北海道から出てきたばかりで、まだあんまり東京のこと分かんなくて…」

知ってる。
たぶん、彼女のことならけっこう俺は知ってるんだ。

同居が決まってから今日までの約一ヶ月、兄貴からさんざん話を聞かされてきたのだから。

けど!こんなに俺の好みにストライクだなんて聞いてない。

「母さん。俺、メシ食ってきたからいいわ」

とっさに出た嘘だった。

とにかく今はひとりきりになって、俺の中の“愛と刺激を欲する18歳男子”を鎮めなければ。

そのとき、

「えー。せっかくまなみちゃんが料理してくれたのに、食べないの?」

奥の席から、俺の足を止める声がした。

言ったのは隣の家に住む、ゆいさん。
親戚の姉ちゃんみたいな感じで、なんか逆らえない人だ。

ちらっとまなみの顔を見ると、彼女の瞳も「ねえ、食べないの?」と語りかけていた。