振り落とされてしまいそうなスピードで吸血鬼は空を急ぐ。
私は目を閉じながら、必死で吸血鬼にしがみついていた。
人よりもずっと体温の低い体。
なのに、不思議と冷たいとは思わなかった。
「どうやらここで合っていたようだな」
吸血鬼が止まる。
私はそっと目を開けた。
簡単には人が寄り付けない針枝の森の奥の洞窟から、ぼんやりと明かりがもれている。
私を抱えたまま、吸血鬼は雪の上に降り立った。
すぐ側には吸血鬼の涼しげな顔。
私は吸血鬼にしがみついていたことに気付いた。
自分の行動が急に恥ずかしくなる。
「あの…自分で歩けるから、降ろして?」
吸血鬼は横目に私を見る。
「先程まで私にしがみついていた者とは思えない言葉だな」
「それは…!」
不可抗力という奴だ。
反論しようとした私の口を吸血鬼が押さえ、静かにと警告した。
洞窟から誰かが出て来る気配がする。
吸血鬼は私を降ろすと雪の上へ立たせた。