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「……様、唯斗様、」


「……あ゙ぁ?」

「着きましたよ」


穏やかな笑みを浮かべて振り返ったのは、運転手兼ボディガードの山岸。

どうやら俺は、帰り途中の車の中でいつの間にか寝てしまっていたようだ。


「だいぶ、疲れているようですね」

乱暴に目をこする俺を見て、山岸はクスリと笑った。


「……なんでだよ」

あからさまに不機嫌な声で、聞き返すと……


「寝顔を見れば、それくらいわかりますよ」


楽しそうに、そう答えた。




「覗きかよ……
 趣味悪いぞ、山岸」

思わず反論したが、俺は未だ夢の中のような表情。

説得力なんて、あるはずもなく。


「ご心配なく。
 ミラーに映ったのを、チラッと見ただけですので」

アッサリと、返されてしまった。






――――山岸は俺にとって、言ってみれば祖父のような存在だ。

いや、祖父と言うには、少し若すぎる気もするが。


仕事の忙しい両親に代わって、俺の世話をしてくれたのも山岸だった。

いつから榊家に仕えているのかは、よくわからないが……


なんにせよ、俺が今まで生きてきて一番一緒にいる時間が長いのは、山岸に違いない。




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