午後11時27分

久保美和はバイト先から自宅アパートに帰ってきた時、何者かとすれ違った。

ジーンズに赤いパーカー姿で、フードは目深にかぶっており、顔は見えなかった。

美和は不審に思いつつも自室の前まで来た。
カギを取り出そうとバッグの中を探す。

すると隣室のドアが少し開いてるのに気付いた。

隣室の小泉秋保は半月前に引っ越してきたばかりだった。

バンドを組んでいるとかで、髪を真っ赤に染めてはいたが、引っ越しの挨拶は丁寧だった。

今朝も顔をあわせた時、挨拶をしてきた。

礼儀正しいコだなと美和は好感を持った。

美和の脳裏に、先ほどすれ違った何者かの姿が浮かんだ。

こんな夜中にドアが開いたままというのもおかしいと思った。

「小泉さん?」

ドアを開け、呼び掛けてみたが返事はない。

電気はついておらず部屋は真っ暗だった。

美和は手探りでスイッチを探すと電気をつけた。

明かりに照らされた奥の部屋。