「……シャーリィ、眠ったのか?」

 眠りと現実の境をさまようシャーリィの耳に、(さぐ)るようなウィレスの声が聞こえる。
 シャーリィは口を開こうと思ったが、できなかった。

 シャーリィが動かないのを見てとると、ウィレスは壊れ物にでも触れるように、そっとその髪に触れた。

「いいんだ。お前は。どんなわがままを言っても、冷たいことをしても……そばにいてくれるなら。都合(つごう)良く言うことを聞いてくれる道具としてでも、苛立(いらだ)ちをぶつける相手としてでも、お前が俺を必要としてくれるなら、それだけで……。それが、俺の生きる意義だから。だから――お前はもっと、俺を利用して()いんだ」

(……お兄様)
 シャーリィはその言葉に、胸が()まるような幸せを感じた。

 本当は、すぐにでもその想いに(こた)えたかった。
 自分も好きなのだと伝えたかった。
 だが、急速に眠りへと堕ちていく意識の中では、唇を動かすこともできない。

(お兄様……好き。大好き。お兄様がそばにいてくれるなら、私、王女じゃなくてもいい。お父様とお母様の本当の娘じゃなくても……。待ってて。ちゃんと(こた)えるから。今日はもう、ちょっと言えそうにないけど……でも、明日になったら、きっと言うから。私の方から、好きだと言うから……だから……)

 優しいぬくもりに包まれて眠りに()ちていくシャーリィは、まるで疑っていなかった。
 自分が愛を告白したなら、兄は必ず、それに応えてくれるはずだと。
 
 翌日、決意した通りにウィレスに告白した自分が、手酷(てひど)く拒絶されることになるなど、彼女はこの時、予想だにしていなかったのだった。