悠くんに相談していないことが一つあった。

お菓子作りの材料を買うためによく立ち寄るスーパーが近所にある。

七月になってから、スーパーに立ち寄る度に一人の男の店員さんに話しかけられることだ。

それは業務的な内容ではなく、私が作ったお菓子が食べたいだの、一緒に食事をしようといった私語に近いもの。

どうして仕事中にわざわざ私に関わるのか分からない……。

毎日学校でぼっちで卑屈になりがちな私だけど。

正直、距離が近い店員さんに嫌悪感と恐怖を拭うことは出来なかった。

悠くんにわざわざ材料買いに行く為に付き添ってもらう。

なんてことは負担をかけさせたくなくて出来なかった。

お会計が終わってお店を出るまでの辛抱だと言い聞かせていた。

憂鬱な買い物だったけど、暑さを乗り越えて朝一で来れば、その男の店員さんを見かけなかった。

それだけで気が楽になったものだ。






何も考えずに来たけど、何を作ろうかな。

仮の彼氏彼女になってから、私は送り迎えをしてくれる悠くんにお礼と称して作ったお菓子をあげるようになった。

今は暑い時期だから傷みにくい焼き菓子をあげたりするけど、悠くんは「美味しいよ」と食べてくれる。

悠くんってマカロンは食べられるかな?

柑橘系ならさっぱりして食べやすいかもしれない。

私はシトロンのマカロンを作ることに決めて、必要な材料を探しに店内をゆっくりと見て回り始めた。