「ねえ、笹山さん、また人の彼氏を横取りしたんだって」

「で、飽きたらポイ捨てでしょ?」

「ほんと悪女だね。中学時代気に入らない女子をいじめ倒したらしいよ」

「ああ、知ってる! 自分の手は汚さず取り巻きを使ってたんでしょ?」

「性格わっる〜!」


耳に届いた陰口に、思わず溜息を零してしまいそうになる。

私、笹山(ささやま)(きょう)は。
高校入学してすぐにデタラメな噂のせいで孤立している。

噂上の私は、人の彼氏を略奪しては何股もかけたり、気に入らない子を手を汚さずに虐める悪逆非道な人間らしい。

初めは違うと潔白を主張したけど、誰も信じてくれず、悪評は尾びれが付いて酷くなるばかりだ。

真っ暗な気分を抱いて教室に入ると談笑して賑わっていたクラスメイト達の声が静まり、私に視線が向けられる。

その視線から逃れるように、そそくさと自分の席へ向かった。

次の授業まであと十五分。教科書を眺めながら、昼休みが早く終われと祈っている。

私と同じ列の前方に視線を向けると、一人の女の子がクラスメイトに囲まれてお喋りをしていた。

桐谷(きりたに)真菜(まな)さん。

クラスメイトで私が個人的に理想としている女の子だ。

一五〇センチと小柄で、ぱっちりな丸っこい瞳、ピンク色の唇。ふんわりしたミルクティーブラウンのボブヘアー。

彼女はまるで大好きな恋愛小説のヒロイン像そのものだ。

実際、かなりの美少女で朗らかな性格で、男女問わず人気者だ。