『颯ちゃん…紀恵より大好きな人がいるって本当なの?』

『んー?誰から聞いたの?』

『颯ちゃんの…ママが言ってた。』

『………あの人の言うことは気にしなくていいんだよ。…嘘、だらけだから』

『ウソ?』

『そう。嘘つきは泥棒の始まりって言うからね。紀恵は嘘ついちゃダメだよ』





最近、よく昔の事を思い出す。




多分親に



”颯太さんとは昔から知り合い”



だという事を教えてもらったから。




(颯太さんは思い出す気配すらないんだけど)




あれから何度か試してみた。



”颯ちゃん”と連呼してみたものの全て無意味。



思い出すどころか変に思われているはず。




(…颯ちゃんとかもう絶対呼ばない)




駅のホームで昨日の事を思い出すとあまりの恥ずかしさに頭を抱える。




(思い出してほしくて必死になってたけど、この歳であの呼び方はダメでしょ…)




(やっちまった…)と溜め息を吐き出せば、急にカバンの取っ手部分が




「っ!?」




グイー、と引っ張られる。




(え!うそ!ひったくり!?)




その行動を死守するかのように勢い良く振り返れば




「おっと…!ビックリした~」




私のカバンの取っ手部分に軽く触れていて


放そうとしない




「久しぶりだね。石沢サン」




私の名前(苗字)を知る黒髪の男。