『桜みたいな人だから』


その子は、突然、現れた。


友達が誰も捕まらなくて、時間潰しに行った非常階段。

なんか落ち込んでいるみたいだったから声をかけただけで……特に意味はなかった。あだ名をつけたのも俺の癖。

────サリーちゃん。


凛とした透き通るような声。
まっすぐな中にも少し控えめさを含んだ喋り方。

最初の印象はそれだけ。


二度目に会った時。
サリーちゃんが“日南”の印象を語った──あの瞬間。

俺の中に“坂下彩織”が入り込んできた。


「その髪、桜を意識してるの?」と言われたことはあっても、「桜みたいな人」と言われたことはない。


万桜って名前だから、深く考えずに髪色をピンクにした。

それが目立って……加えてこの性格。

派手なうるさい人──だから、みんなに見られていると思っていたけれど。……ていうか、実際そうだと思うけど。


それでも、「いつも笑顔で桜みたいな人だからみんな見ちゃう」って言われて、お世辞にも嬉しかった。

俺、単純だから。


サリーちゃんを探して、見つけた。
この子のことをもっと知りたいと思った。



────一目惚れ。