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 陽翔がハウスキーパーとして通うようになり1ヶ月が過ぎた頃、月日は4月となっていた。外を眺めていると桜の花がどこからか舞ってくる。

 近くに桜の木があったのかな?何て思いながらオフィスビルの窓からそれを眺めていると、外は強い風が吹いているのか風が吹くたびに桜の花が雪のように降り注ぐ。

 その美しい情景を前にして千夏は大きく溜め息を付いた。美しい桜を見ても千夏は心ここにあらずの状態だった。それというのも毎週のようにやって来ていた陽翔が、ハウスキーパーを辞めてしまったためだった。

 最後に会ったのはあの激しいキスの次の週だった。あんなに激しく甘いキスをしたと言うのに、次に来た時には何も無かったかのようにサラッと帰って行った。自分だけがドキドキしてしまった事に怒ったり、悲しんだりと千夏の心はグチャグチャだった。次に来た時に何か一言言ってやろうと意気込んでいると陽翔が辞めてしまったことを聞かされた。突然の事に千夏は呆然とした。そして気づいた自分は陽翔の事を何も知らないということを……。知っているのは名前だけ……。

 陽翔を探す?

 探して私はどうする?

 何のために探すというの?

 何故探すの?

 理由が無い。

 理由が見つからない。



 「はぁーー。」