日曜朝の駅前は、平日よりずっと人通りが少ない。
からんと音がしそうなアスファルトを、洗濯日和を約束する太陽が熱していた。

反対側にあるバスターミナルに抜けようと、駅構内に入ったところで、背後から少し急ぐ足音が聞こえた。

「紀藤さん、おはようございます!」

万引きを見つかったかのように、私の身体はビクッと跳ねた。
寺島先生が目を細めて笑っている。

「おはようございます。……あれ?」

曜日を勘違いしていただろうかと、バッグからスマホを取り出していると、寺島先生が察してくれた。

「今日は日曜日です。出勤じゃありません。俺はセミナーから、今帰ったところなんです」

「ずいぶん朝早いんですね」

「今日たまたま友人の結婚式があって、新幹線じゃ間に合わないので夜行バスで帰ってきました」

先生は飲みかけの栄養ドリンクを飲み切って、空き瓶をリュックのサイドポケットに突っ込んだ。

「風呂入ってないので、むさ苦しくてすみません」

やってきた人に進路を譲るため、寺島先生は私の背中を軽く押した。
間近で見上げる先生は、たしかにいつもより髪がボサボサで、目も少し赤い。

「荷物、少ないですね」

「0泊なので。中身は書類と財布と携帯とお茶、あとはお土産くらいです」

どこに行くのかとも、何をしているのかとも、先生は聞かなかった。
会話ししたまま歩き出すので、つられて半歩後ろをついていく。

「あ、ご祝儀も用意しなきゃ」

構内を抜ける風に、髪の毛が煽られ耳にかける。
普段自宅で使っているものとは違うシャンプーの、ハーブめいた匂いがする。
寺島先生がその匂いに気づいた様子はない。
例え気づいたとして、それが院長と同じ匂いだとわかるはずがない。
昨日と同じ洋服だと、お休みだった先生が気づくはずがない。

「お土産、ワッフルなんですけど、夜に買ったのでチョコレート味が売り切れだったんですよ。抹茶小豆って、みんな好きかなぁ」