壱琉が”華恋”という女性の事を話すはずもなく
氷彗からの”元カノ”って情報止まりのまま
1週間ほどがたった、ある平日の14時――――



「こんにちはです」

玄関先でニコりと笑顔で頭を下げる”華恋”さん。
なぜかまたこの家を訪ねてきたのだ。

「えっと…
 壱琉なら仕事でいないですが…」

「はい、知っていますよ。
 今日は貴女とお話をしたくて来たんです、詩菜さん」

「…はあ。
 私?…ですか…」

どうして私の名前を知っているのか。

彼女はまた優しい微笑みを向けてくるが


指名されてしまえば拒むわけにもいかず
『どうぞ…』と中へと招き入れるしかない。
お茶まで用意し
リビングで対面する形で私も席についた。

「先日はちゃんと挨拶もせずにすみませんでした。
 改めて私の名前は、城ケ崎 華恋(じょうがさき かれん)と申します。
 宜しくお願いします」

上品、且つ丁寧に頭を下げる彼女。
なんとも苗字までエレガンスだ…

「蓮見詩菜です…。
 こちらこそ…」

名乗ったところで『よろしく』してどうする?
なぜ私まで自己紹介をする羽目になっているのやら。

「私に用事と仰いましたが…
 どのようなご用件でしょう…?」

「いえいえ、用事ってほどじゃないんですが
 壱琉とはどのようなご関係か気になりまして」

すました顔してお茶を一口飲む華恋さん。