**三年前**

  

 セリカが十五歳になってすぐのことだった。聖女の力を聞きつけた城の使者がセリカの暮らす辺境伯領までやって来た。使者の持ってきた手紙の内容に辺境伯であるセリカの父は驚愕した。国境の境にあるこの土地は昔から隣国とのいざこざが絶えない場所。いつ戦争が起きても不思議では無い、そんな場所に王と王太子がやって来るという。

 辺境伯邸は大騒ぎとなった。一ヶ月後この国の王がここにやって来るのだ、失礼があってはいけないと床から天井まで、侍女たちが毎日の様に磨き上げた。それから最高級の食材や酒、茶葉が辺境伯邸に運び込まれていく。料理長は王族に振る舞う料理に緊張をしつつも、いつも以上に豪華な晩餐を作り上げるためレシピを模索していた。



 一か月後の太陽が傾きかけた頃、王都から一台の豪華な馬車が辺境伯邸に到着した。玄関ホールの前でセリカたち家族は王が馬車から降りてくるのを頭を下げて待つ。馬車から降りてきた王は意外にも豪華な衣装ではなく落ち着いた色合いの服を着ていて、優しそうな笑顔でセリカに声をかけてくれた。

「そなたが聖女セリカ・アシュ・フィールドか?」

 セリカがカーテシーで挨拶をすると王は更に笑顔を向け、隣にいた王太子ファルロに声をかけた。

「ファルロ挨拶を」

「セリカ嬢、私は王太子ファルロ・リドアニー・アイドニアです。お会いできて光栄です」

「あ……いえ、こちらこそ王太子殿下にお目にかかれて光栄です」

 ふんわりと笑ったファルロはセリカの手を取り、手の甲にキスをした。おとぎ話のようなこのシチュエーションにセリカは真っ赤な顔をして、されるがままになっていた。

 それがセリカと王族との出会い。

 王と王太子はとても気さくで良い人だと思った。





 思っていたのに……。