城内にある一室にて毎日行われる、不逞な光景。

 ここは、ある女に与えられた特別室。昼間のみ使用をゆるされた特別な部屋。

 今日もその部屋で豪華な椅子に座った美しい女が、口元を扇で隠し、五人の男たちを侍らせながら目を細めている。女の周りには豪華絢爛な衣装や宝飾品が飾られ、机の上には城の料理長が腕を振るった豪華な食事が舞踏会さながらに並ぶ。自分に気を引きたいのであろう男たちは、女にいろいろな物を薦めながら微笑んでいる。それはなんとも奇妙な光景だった。

「セリカ様、今日はルビーを使った髪飾りを用意しましたよ。あなたの瞳と同じ色です。あなたにはルビーが良く似合う」

「いいや、セリカ様にはダイヤが良く似合う。指輪はどうですか」

「セリカ様、お腹は空きませんか?こちらのサンドイッチを一口どうぞ」

 見目麗しい男たちがセリカと呼んでいるのは、この国の聖女であるセリカ・アシュ・フィールドだ。白銀色のロングの髪はサラサラなストレート。それを手ですくい上げれば絹糸のように手の隙間を流れていくことだろう。顔の左右にある大きな瞳は燃えるような赤い瞳をしていて、日焼けなど知らない白い肌にはシミ一つない。教会で祈りを捧げていればきっとその神々しい姿に皆が涙を流すに違いない。

 だが、俺の前で我儘を言い、悪態をつくこの女は本当に聖女なのか?

 見ているだけで吐き気がしてくる。

 それでもここを離れることができないのは仕事のため。俺は一カ月前、この国アイドニア王国の護衛騎士となった。要人の護衛は能力が無ければ務まらない。二七歳という若さで、次は騎士団長に任命されるにでは?と期待されている俺だからこそ務まる仕事だ。こんな風に若くても実力があれば上へと、のし上がることが出来るのは全て実力主義のこの国ならではだろう。

 初めて王城へと上がった日、これからどんな人物を護衛するのか俺は期待に胸を膨らませていた。

 しかし待っていたのは……聖女の護衛。

 この国で聖女と言えばセリカ・アシュ・フィールドのことを指す。聖女の噂は国外にも知れ渡っている。傲慢で、我儘で、悪役令嬢だと……。悪役令嬢とは今、ちまたで流行っている小説の中に出てくる悪役の令嬢のことらしいのだが……。本当に聖女がそのような噂を流されるような人物なのか……俺はこの目で確かめようと思っていた。

 俺は信じていたんだ。

 聖女の噂は全て嘘で真実の姿が必ずあると……。