ミレイナが焦るのには、理由がある。

 ミレイナの祖国であるアリスタ国とここラングール国は、長年に亘って対立状態が続いていた。
 ラングール国側はアリスタ国が国境を侵して資源を不法採掘していると抗議し、アリスタ国側はラングール国が事実無根の因縁を付けた上にアリスタ国民を不当に傷つけたと主張していたのだ。

 しかし、最近になってそれら全てをアリスタ国のひとりの辺境伯が私欲を肥やすためにやっていたことだと判明し、辺境伯が処分された上で両国の和平調印が行われた。

 そして、一ヶ月後に国交正常化記念祝賀会が開催される。

 ラングール国の王宮で働く唯一のアリスタ国民であるミレイナは、アリスタ国とラングール国の友好の象徴的な存在としてとしてそれに参加することになっているのだ。

 そのときに恥ずかしい思いをしないようにと、ミレイナは日々レッスンを受けていた。

(歩くのとお辞儀の練習だけで、もう四日もかかっているわ)

 他にも、座るレッスン、食事のレッスン、声をかけられたときの立ち振る舞いのレッスン……。
 身のこなし方だけでも気が遠くなる程なのに、さらにはラングール国の歴史や地理、周辺国との関係まで多岐に亘って講義を受けている。