突然目の前にボールが飛んできて、目の前が真っ暗になる。

「……ん」

「若菜さん――若菜さんっ!」

 そして目を覚ますと、目の前に八乙女くんがいた。

 あれ? 何これ、幻覚?

 ボールで頭を打って幻覚を見てるの? だって――。

「あれ……あれれ!?」

 気がついたら私、八乙女くんにお姫様抱っをされていた。

「大丈夫? 若菜さん。これから保健室連れていくからね」

 きゃああああああああ!!

 体が火がついたみたいに熱くなる。

「い、いい! いいよ、私、自分で歩けるっ!」

 ブンブンと首を横に振るも、八乙女くんはニッコリと爽やかな笑顔で笑う。

「いいから、いいから。無理しない方がいいよ?」

「そうそう。若菜、無理しないほうがいいよ」
「そうそう、二人で保健室行きな?」

 モカちゃんと恭介くんにも強い口調で言われ、観念して大人しくする。

 でも、みんなの前でお姫様抱っこだなんて……。

 八乙女くんったら、なんて優しくて王子様なんだ。

 好きでもない女の子にこんなに優しくするなんて。

 私は悲しいような嬉しいような、複雑な気分になった。