「おはよう!」

 次の日の朝、私は元気を振り絞って教室のドアを開けた。

「おはよう、若菜」

 いつものようにサエちゃんが出迎えてくれる。

「おはよう、サエちゃん」

 私は精一杯の笑顔を作る。だけどサエちゃんは不思議そうな顔をした。

「大丈夫? 目が赤いよ。顔色も悪いし、体調でも悪いの?」

 サ、サエちゃんってば鋭いなあ。

「う、ううん。昨日ちょっと夜ふかししちゃって。ほら、面白いマンガがあったから……」

 本当は、一晩中八乙女くんのことを考えて眠れなかったからなんだけどね。

 でもそんなこと、サエちゃんには言えないよ。

 私が誤魔化していると、そんな私の肩を、誰かが思いっきり叩いた。

「おーっす若菜さん、おはよ」

 えっ……。

 振り返ると――そこにいたのは恭介くん!?

「お、おはよう、恭介くん。どうしたの……」

 ビックリして聞いてみると、恭介くんはニコニコと人懐こそうな笑顔を私に向けた。

「何って、クラスメイトに挨拶しちゃいけない?」

「ううん、そうじゃないけど……」

 戸惑う私に、恭介くんは少し声を低くして答えた。

「ほら、昨日あんな事があったじゃん? だから心配でさ。どう? あれから何も無い?」

 あ、そっか。雪乃ちゃんのことがあったから、心配してくれてるんだ。優しいなあ、恭介くん。

「あ、うん、大丈夫」

「そう? まあでも、八乙女ファンの奴らって過激だからさ、油断しないほうがいいぜ」

「うん、ありがとう」

「あ、そうだ」

 恭介くんが名案、とばかりに提案する。

「そうだ。もし良ければ、俺が学校の帰り道、送ろっか? また嫌がらせにあったら大変だしさ」

 えっ?

 え、ええっ!?

 それって、恭介くんと一緒に帰るってこと? なんで??