「はあああああ!? アンタが虹祭りいいいいいい!?」
私が彰くんと虹祭りに行くと伝えると、由香はすっとんきょうな声をあげて大袈裟に驚いた。電話なんだからもう少しボリュームを下げてほしかった。おかげで耳がキンキンと痛い。
「彰サマといい塚本といい、夏休みだってのに随分と急展開ね」
私は昨日までの出来事を由香に電話で話した。誰かに話を聞いてほしかったというのが半分、彼女にこういう事を秘密にしておくと後が怖いからが半分という心持ちで。
「で? 日曜は何時に何処で待ち合わせ?」
「……十七時に虹ヶ丘通りの入り口」
「ふーん。へぇー。そうなんだぁー。ふーん」
由香の意地悪く歪んだ笑顔が目に浮かぶ。このたまに開く妙な間が電話の嫌なところだ。
「…………」
「…………」
「……何よ」
「別にぃ? ただぁ、塚本の誘いはすぐ断るのにぃ、彰サマとは行くんだなぁ〜と思ってぇ」
「だからっ、それはテストの時の約束を果たすためだって」
「でも、断ろうと思えば断れたでしょ?」
ぐっと言葉に詰まる。そう言われてしまっては反論が出来ない。
「めんどくさがりのアンタがなんで彰サマの誘いだけは断らないんだろうねぇ?」
由香の随分含みのある言い方に、眉間にぐっと力が入った。
「ニセ彼女頼まれた時もそうだけどさ、言ってきたのが平岡以外の男だったらあんた光の速さで断ってたんじゃない? 全校生徒に知れ渡ってたって、付き合ってないって否定することは出来たでしょ?」
私が黙っているのを良いことにどんどん突っ込んでくる。由香が息を吸った瞬間、その隙を逃さず口を開いた。
「お母さんに呼ばれたから切るね。じゃ、バイバイ」
「あ、ちょっと!」
三十六計逃げるに如かず。スマホをスライドさせて溜め息を吐いた。
……言われたのが電話越しで良かった。さっきは電話の嫌なところを述べたが、良いところはこんな風にすぐに逃げられる点である。だって、今の話を直接言われていたら私に逃げ道はなかっただろうから。