先に沈黙を破ったのは、おーちゃんだった。


「愛花」


なにかを諦めたようにわたしを呼ぶその声は、柔らかくて、とろけるような甘さを含んだ、とても優しいものだった。

おーちゃんはゆっくりとこちらに近づくと、もう一度わたしの手をとった。

けれど、さっきの乱暴さと打って変わって、まるで壊れ物に触れるみたいに、すり、と手の甲を撫でられる。


「……帰る前に話、聞くから。とりあえず、移動しよう」


わたしは鼻をすすりながら、弱々しく頷いた。

駅前で声を荒げてしまったわたしは、おーちゃんまで巻き込んで、完全に見せもの状態になっていた。