現実は物語の様に次々とイベントなどは起こらない。大半は特筆する事もないまま、惰性で日々は流れて行く。

 GWを明けた辺りから徐々に強くなっていった陽射しは、夏が近い事を悠然と僕達に押し付けて来る。

 6月も半ば、綾との恋人契約から1か月と少し経ち、その間に両手の指の数に耳を足したぐらいはデートを重ねた。

 そろそろ効果が表れてくる頃だろう。

 もっとあざとくアピールしていればとっくに噂になっていただろうが、綾曰く極力自然にした方が良いらしく、まるで中学生の様に僕達はゆっくりと距離を縮めていった。

「なあカナタ」

 夏色を帯びてきた陽射しの所為で滲んだ汗をハンカチで拭っていた時だった。

 隣でスマホを弄っていた博人は顔をあげる事も無く僕に話しかけてくる。

「なんだ?」

「お前、西原と付き合ってるってマジか?」

 相変わらず視線も両手もスマホを捉えたまま、興味はないけど一応聞いておくか、みたいな雰囲気の言葉。

「ああ、マジだな」

「・・いいのかよ、それで」

「どうゆう意味だよ」

「そのまんまの意味だよ」

「いいに決まってるだろ、ルックスも中身もこれ以上ないレベルだろ」

「ふ〜ん」

 それ以上話を続けるつもりはない様で、博人が口を開く事もスマホから顔を上げる事もなかった。

「カナタ」

 講義が終わり、帰ろうと立ち上がった僕にハルカが声を掛けて来る。

「どうした?」

「私また5限まで時間潰さないといけないからちょっと付き合ってよ」

「まあ構わないけど」

 博人の口から綾の事が出たとなれば、おそらくハルカの耳にも入っただろう、ここが正念場だ。

「ありがと、じゃあ取り敢えず駅ビルでもいこっか」

「ああ」

 駅までの道中はハルカが殆ど1人で喋っていたが、内容は昨晩のテレビの事や綾以外の友達の話ばかりで、僕と綾の関係を尋ねて来る事は無かった。

 ただ、それは知らないから聞いてこない訳では無いのはハルカの言動から推測出来た。

 明らかに口と視線、表情が落ち着きをなくしていて不自然極まりない。

 駅に着いてからハルカが向かったのはなんの因果か、僕と綾が【契約】をしたカフェだった。

 レジに行き飲み物とサンドイッチを買って空いていたカウンター席に並んで座る。

「それにしても暑いね〜」

「そうだな」

「そろそろ夏服出さないとね」

「ああ」

「そう言えば最近服買ってないな、ご飯食べた後ちょっとだけ見に行っていい?」

「別にいいぞ」

 意味があるようで無い内容ばかり吐き出して、本当に口にしたい言葉は飲み込む。

 それがわかってしまうのは双子だからか、僕がハルカを愛しているからか。