翌朝、目を覚ました僕の足の中にハルカの顔はなく、ユニットバスの方から微かにシャワーの音が聞こえてくる。

 壁に掛けられた、黒字に白の文字盤が入ったアナログの時計を見ると8時を少し回った辺りだった。

 まだ睡眠を要求する身体を無理やり起こしてキッチンに向かうと、食パンをトースターに放り込んでから小さいフライパンを火にかけ、温まるのを確認して玉子を2つ割り入れた。

 少し水を差してから塩胡椒をし蓋を閉める。ケトルに水を入れて、水切り籠に置いてあったままのマグカップを取り出しインスタントコーヒーの粉を入れる。

 お湯が沸いて、目玉焼きとパンが焼き上がったと同時にハルカがシャワーから出て来た。

「おはよ〜カナタ」

「おはよ」

 マグカップにお湯を入れて、目玉焼きをパンの上に乗せ皿に盛ると、2人がけ用のダイニングテーブルに置いた。

「カナタも今日2限だっけ?」

 ハルカが目玉焼きトーストをサクサクと咀嚼しながら聞いてくる。

「ああ、2限だけだけどな。つか噛みながら喋るなっていつも言ってるだろ」

「いいなぁ、私2限5限だからどっかで時間潰さなきゃ」

 僕の小言は完全に無視された。いつも事だけど。

「ハルカが単位落とすからだろ、2年でちゃんと取っておかないと来年しんどくなるぞ」

「はいはーい」

 全く反省の色の見えない返事をして、ハルカはコーヒーに手を伸ばし、フーフーと息を吹き掛けてから口に運んだ。

「ん、にが〜い!」

「だから砂糖とミルク入れればいいだろ、無理してブラック飲まなくても」

「だってカナタいっつもブラックじゃん!」

「僕はブラックが好きなんだよ、別に僕に合わせる事ないだろ」

「カナタが好きなの私も好きになりたいの!」

 深い意味の無い言葉。そんな事はわかっている筈なのに、心が喜んでしまう。

「馬鹿な事言って無いでサッサと食べて髪乾かせよ、風邪ひくぞ」

 誤魔化しながら言うとハルカは口を尖らせたが、反論はせずに食べる方に口を動かした。