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今は加藤が運転する車の中で、心地の良い揺れに身をまかせている。

なっ……何だったのさっきあれは?

離さないとか、かわいいとか……。

いやーーーー。

後部座席で身もだえている玲奈をバックミラー越しに見つめる加藤。

玲奈を迎えに来た加藤は、ずぶ濡れの玲奈を見て珍しく慌てていた。

「お嬢様ずぶ濡れじゃないですか。大丈夫ですか?」



車の中からタオルを出し玲奈を包むと、匠は驚きで目を見開いた。玲奈は顔を赤く染めぽーと宙を見つめている。

「ちっ……」

匠は舌打ちを打ったが、ぽーっとしている玲奈の耳には聞こえていなかった。

匠は急いで一条宅に向かって車を走らせる。

家に着くと冷たくなった体を温めるため、玲奈はすぐにお風呂へと向かった。

加藤は車の中でも、自宅に着いてからも、何も聞いてこないが心配している様子だった。

お風呂から出てリビングに行くと、加藤がアイスティーを持ってリビングにやって来た。

「お嬢様大丈夫ですか?アイスティーをどうぞ」

喉が渇いていたため、差し出されたアイスティーを一気に流し込む。

「おいしい。ありがとう」

「・・・・」

匠は押し黙っていた口をゆっくりと開いた。

「お嬢様……何があったのですか?」

「えっと…」

これは話すべきなのかしら?

恥ずかしすぎる。

顔を赤く染めソワソワしている玲奈をジッと見つめていた匠が、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何でもないのよ。後輩とラーメンを食べて、バスケットをしたの」

ふふふ。っと思い出し笑いをして微笑むと、目を見開いた匠がソファーに座っている玲奈の前にやって来た。

加藤は玲奈の前に両膝をつくと、両腕を玲奈の腰に回し包み込んだ。匠が両膝を床につけているため、目の高さが同じになる。

近い……。

加藤……どうしたのかしら?

匠の目をジッと見つめていると、匠が小さな声で呟いた。

「渡さない……」

えっ……。

「加藤どうし……」

匠は玲奈の言葉をさえぎるように、言葉を重ねた。

「お嬢様……玲奈……玲奈は誰にも渡さない」

トクントクンと心臓が早くなっていく。

「ずっとこの気持ちに蓋をしてきた。でも……そんな顔をした玲奈を見たら、言わずにはいられない。ずっと私が近くで見守ってきたんです。これからも私に守らせて」

匠は玲奈の髪を一房とると自分の口元へ運びキスをした。

「忘れないでください、私はいつでも貴方のそばにいます。少しでいいから私のことも見てください」

いつもの優しい瞳が真剣な瞳に変わり、そして甘くなっていく。余りにも近くで見つめ合っているため、匠の目のはじが赤みを帯びていることがわかる。

玲奈は匠の腕に囲まれて、動けずにいると……匠の顔がゆっくりと近づき、額にチュッとキスをおとした。

驚き両手で額を押さえている玲奈を見つめ、匠はクツクツと笑い出した。

「今日はこの位にしておきます。おやすみなさい。玲奈」

匠はゆっくりと立ち上がるとリビングから出て行った。