走ること20分、大学病院の入口には、怪我人が大量に寝転がっていた。



トリアージはだいたい終わっているけど、治療が追いついていない。



私は即座に、手袋と聴診器などを掴み、近くの人に駆け寄る。



「大丈夫ですかー?お名前言えますかー?」



意識が朦朧としているのか、反応が薄い。



頭部外傷があって、黄色タグだけど危険だ。



とりあえず頭からの出血を止めて、他に異常がないか確認する。



近くにいた看護師さんに様子を見るようお願いして、次の患者さんをみる。



そんな調子で応急処置を済ませていって、およそ2時間。



多重事故で怪我を負った人たちはひとまず治療が終わって、他の先生たちと後片付けを始めた。



「西荻、助かった。緊急で来てくれてありがとな。」



後ろから寺内先生の声がして、私は振り向いた。



「寺内先生もお疲れ様です。」



「疲れただろ。病み上がりだから、少し仮眠は取れよ。」



「寝れるかどうかはわからないですけどね。一旦休みます。寺内先生もちゃんと休んでください。」



「おう。一緒に仮眠室行くか。」



「はい。その前に、自動販売機でお茶だけ買っていいですか?喉渇いちゃって。」



「俺も買う。水分はきちんと取らないとな。」



2人でゆっくりと歩いて、仮眠室の近くの自動販売機に向かう。



疲れきってノロノロ歩く私に、さりげなく合わせてくれる寺内先生。



その優しさにきゅんとする。



2人の間に会話はなかったけど、嫌な沈黙にはならなかった。