首をかしげて、
遥先輩の次の言葉を待つ。


「俺、ガキのころ、
一時期、声出なかった時期があってさ」


声、が……?


「で、でも、私、遥ちゃんと、
色々なお話してたよ?」


「ん、凛花はそう言うと思った」


柔らかい秋の風のように
遥先輩が優しく微笑む。


だって、遥ちゃんとの思い出は
楽しい思い出ばかりで……


「うちの親、凛花も知ってる通り、
神経質で、完全管理型の親なんだよ。

今でもそうだけど、
昔はもっと病的に神経質でさ。

消毒してないものには触らせない、
市販のものは食べさせない、
良質なものしか目に触れさせない、

テレビだめ、ゲームだめ、みたいな。


で、物心ついたころから、
あれダメ、これダメって
やることなすこと訂正されて。


そのうち、
なにを言えばいいのか
分かんなくなって、

気が付いたときには、
話せなくなってた」


遥先輩は、他人事のように
笑顔すら浮かべて
話しているけれど、

それはきっと遥先輩にとって
辛い思い出……