◇
「……ん…」
「目が、覚めたようですね」
柔らかな声に撫でられるようにして、ゆっくりと目を開く。
意識をしっかりと持つと、優しい眼差しの男性がわたしに浅く礼をした。
「っ、え、あの、」
「昨日はご来店下さり、誠にありがとうございました」
「っ…店員さん…?」
「はい」
高級そうなブランケットを意識もせず剥ぎ取り、周りをキョロキョロと見渡す。
確かに莉菜とご飯を食べた場所と同じ天井。そして今の服装はラフだけれど、間違いなく昨日の店員さん。
…まず今は何時だ。そもそもわたしは昨日麗蘭街に来てから、わたしは。
…わたしは――…。
「っ紫月さんはどこですか!?」
「…。良かったです、覚えていらっしゃるようで」
「……え…?」
「お客様、紫月様の目の前で気を失われたのです。驚いたのでしょうね」