【一ノ瀬side】

「で、その日から
お前は、天野さんに
粘着質で変質的な片想い中と」


非常階段の壁に寄りかかりながら、
爽やかに笑ってる伊集院を

睨みつける。


「でも、そうなんだろ?」


でっかい弁当片手に、

じっと見つめてくる伊集院に
ポツリつぶやく。


「塾、楽しかったんだよ。

成績でクラス分けされたり
席次が決まるのも面白かったし。

バスケの話にならないのも新鮮だった。

でも、遅れて教室行ったら、
言われたい放題で地味にへこんだ」


「それにしても、

いくら天野さんが
よく知りもしらないお前のことを
フォローしてくれたからって

塾の帰りに
黙って天野さんの後をついていくなんて、
それ、ヤバイ奴のすることだから。

いくらお前がイケメンでも、怖いから。

単なる不審者。

よく、天野さん逃げなかったよな。

しかも、結局まともな会話もできずに、

ずっと天野さんが
気遣って話してくれてたんだろ?

完全にアウトだろ」


好き勝手言っている伊集院に
なにも返せずに、黙って弁当を食べ切った。


楽しそうに笑っている
伊集院をチラリとみて

重い口を開く。


「お前こそ、
なんでいきなり天野に話しかけてんだよ」


「ちょっと話しかけたくらいで怒るなよ。

お前のために
彼氏がいるかどうか聞いてやったんだよ。

むしろ感謝しろ」


そう言って伊集院が、
得意げに顎を上げる。


「…で?」


「で、なに?」


おどける伊集院に、
深くため息をつく。


「だから、
天野はなんて答えたんだよ」


「知りたいか?」


片足で軽く伊集院を蹴飛ばすと、
伊集院が笑いながら答える。