その日の夜、朝歌から電話があった。


「明日ね、叶奈と花籠神社のお祭りに
行こうかって話してて、

もし良かったら、羽衣もどうかな?

あ、もちろん、無理はしない範囲で!」


幼い頃に花籠神社のお祭りで
誘拐されそうになったことを
知っている朝歌が

遠慮気味に言葉を選んでくれているのが
電話越しに伝わってきて、


朝歌の優しさに、
じんわりと心が温かくなる。


花籠神社のお祭りには、
あの夜以来、
一度も行っていなかった。


でも、朝歌も叶奈ちゃんも一緒だし!

いつまでも怖がってても仕方ないし!


「行く!」


明るい声で返事をすると、

電話の向こうで、
朝歌が笑顔になったのがわかった。


「良かったー!

羽衣も一緒に行けたらいいなって
思ってたんだ!

この時期、灯篭も綺麗だし楽しみだね!」

  
「うん!」


ふと、朝歌の言葉に

一ノ瀬くんと神社を訪れた
あの日のことを思い出す。


「羽衣、どうしたの?」


「な、なんでもないっ」


と、答えたものの。


『もう、つきあってるようなもんだし』


昨日の一ノ瀬くんの言葉が
頭のなかで繰り返される。

大会が終わったら、
一ノ瀬くんと

つきあうことになるのかな。


「羽衣、どうしたの?」


朝歌の声にハッとする。


「あ、あのね! 
私、朝歌と叶奈ちゃんに
聞いてほしいことがあるの!」


好きなひとができたって、
ふたりに聞いてほしい。


一ノ瀬くんのことを、
好きになったって、ふたりに伝えたい。


「うん! 話、聞くよ!
お祭りの帰りに時間取ろうよ」


朝歌の明るい声に
心がホッと温かくなった。

明日神社に行ったら、

大会で一ノ瀬くんが活躍できるように、
今度は一ノ瀬くんのために

お守りをもらおう。


試合前に
渡すことはできないかもしれないけど、
せめて遠くから応援したい。