クノさんとの遭遇事件からは、しばらく平和な日々を送っていた。

休みの日は中学時代の友達と遊べたし、高校と家の中間地点にあるスーパーマーケットでのアルバイトも決まった。


高校生活を楽しめる余裕はまだない。

ただ、穂波さんから掃除当番を変わって、とか、宿題見せて、とかお願いされて、引き受けたり。喜んでもらえたり。

それなりに頑張って上手くやっていけていると思う。


しかし、一週間ほど経った頃、突然嵐がやってきた。


「ちょっ、あんた、あの時の!」


放課後。下駄箱に向かう途中で、いつぞやのウェーブ美人女子とすれ違った。

軽く会釈をして、通り過ぎようとしたが絡まれてしまった。


「は、はいっ」

「クノとマジで付き合ってんの?」


先輩は眉間にしわを寄せ、私に顔を近づける。

嘘ではないかと疑っている様子で。


「えっと……」


どどどどうしよう。

すぐ否定していいものだろうか。

あの時、クノさんに「協力して」って言われて頷いちゃったし。

私がただの通りすがりであることを伝えたら、絶対話がややこしくなる。


でも本当は付き合っていない。

ていうか、クノさんすぐ無かったことにしてくれるって言ったじゃん!