そこそこの偏差値とか、家から自転車で35分とか、公立で学費が安いとか、部活は強制じゃないこととか。

母が賛成してくれそうな理由はたくさんあった。

でも、そんなの本当はどうでもよかった。


理由はたった一つ。

憧れの人がいるから。


美透(みと)~変な子と仲良くならないようにね! 嫌なことは嫌だって言うんだよ!」

「あはは、心配しすぎだよー。でもみんなと離れるの寂しい」

「私も寂しいよ~! なんで急に志望校変えたの?」「美透が選んだんだから応援はするけど。じゃあ後でラインするね!」


県道の交差点で、お互い手をぶんぶん振り合ってから、私は右へ、中学時代の友達は左へハンドルを切った。


小学・中学と一緒だった友達全員と離れ離れになる。


友達作れるかな。いじめられないかな。ちゃんと高校生活送れるのかな。


不安な気持ちになりながらも、イヤホンを耳に入れ、力いっぱいペダルを踏み込んだ。


土手の下に広がる草むらや公園、野球場を横目に、自転車をひたすら漕ぐ。


流れてくるのは、ギター一本での弾き語り。

かすれた歌声から放たれるのは、綺麗なメロディーに暗い歌詞。

まるで不安に寄り添ってくれるみたい。


もし高校で憧れの人と会えたら、私はどうなりたいのだろう。

まだ、答えはない。