「背を早み、岩にせかるる 滝川の」


「われても末に 逢はむとぞ思ふ


って、そんな大げさな別れじゃないだろ、すみれ」


理人さんは、ちょっと困ったような顔をして笑う。


百人一首は全部暗記している。この恋の歌は特に私のお気に入り。


今は辛く離れても、必ずまた会おうねっていう意味の歌だ。


高校へ出勤する彼と短大の方へ向かう私が別れ道で、立ち止まっていた。


「だって、今日宿直だなんて聞いてないもん」


「早くから言うとまたメソメソしちゃうから、なかなか言い出せなかったんだよ。ごめん」


「じゃあ、2日間も会えないんだね」


宿直と聞いてからすでにもう、寂しくてたまらない私は、また泣きそう。