エレヴァートとランフォルセとを結ぶ唯一の街道……と言っても舗装なんてされているはずもなく、単に山道のそれであったが……今また新雪が積もりつつあるその長い一本道をアレキサンダーが風を切るようにして走っていた。
はたから見たらその姿は優雅に映ったかもしれない。――でも、その乗り心地は最悪だった。
まず何より、お尻が痛くてたまらなかった。口が自由であったなら、こんな状況でなかったらきっと「止めて!」と叫んでいたに違いない。
乗馬はお尻が痛くなると聞いたことはあったけれど、ここまで辛いものだとは思わなかった。
そしてそのスピードも想像以上だった。男曰く積雪のせいでこれでも本来の速さではないらしいが、私には雪など全く障害になっていないように思えた。確かに、この速さで落下したらと思うとぞっとした。
更には冷たい雪と風が直接顔に当たりほとんど目を開けていられず、しかし防寒具を着こんでいなくとも体にそこまでの寒さを感じなかったのは、皮肉なことにその男によって後ろからがっしりと抱え込まれているからだった。
男の名はフィエールと言うらしい。本当はもっと長い名前を言われたのだが、一度では覚えられなかった。
私を捕まえられたことで相当に気分が良いのか、彼は何も答えられない私のすぐ頭上で色々なことをペラペラと喋ってくれた。
自分はランフォルセ国内でも指折りの剣の使い手であり王直属の近衛騎士で、これまでに王から名誉ある勲章をいくつも与えられそれが自分の誇りであるなど、ほぼ自慢話ばかりであったが、私に関わる重要な話もあった。
「ストレッタが魔導術士だけでなく銀のセイレーンという更なる脅威を手にすることを王は懸念しておられる。もしお前が王に忠誠を誓うならば王はお前を悪いようにはしないだろう」