たいしたことなんてないなんて、嘘だ。

 巧くんの家には空になったスポーツ飲料水やミネラルウォーターがたくさん置きっぱなしになっていて、その割に賞味期限の切れたお弁当が一口も食べられずに残っていた。

 食欲、ないんでしょ。
 病院には行っていないの?

 二日前の夜に来たときは片付いていた。 
 一人なのに掃除が行き届いているなって思った。

 でも、あのとき感じたことは。

 部屋が綺麗というよりは、生活感がないということだった。

「……つよがり」

 一人暮らしの割には、広すぎるリビング。

「本当に、たいしたことないんだって」

 明らかにフラついている、足どり。

「午前中に病院で点滴と薬で熱を下げてもらったから」
「余裕ぶらないで」

 たいしたことないなら点滴しないでしょ。

「そんなこと言っていいの?」
「わたしの前で。みんなが望む仁瀬巧に、ならないでよ」

 本当のあなたは、どんなひとなの?


「優しいね。今日の花は」

 それは違うよ、巧くん。

 わたしじゃなくて。
 あなたが、優しいんだよ。

 優しくしてくれるとね。
 わたしも優しくあろうって思う。

「僕が病人だから? だったら。毎日、病人でいればいいか」
「ヘンなこと言わないで」
「毎日病気だとおかしい?」
 …………?

 ベッドに横になる巧くんの顔を。
 濡らしたタオルで、そっと、拭う。

「カラダも拭いてよ」
「それはっ……、自分でして」
「もう全部見たのに?」
 …………!!
「一緒に風呂。入ったよね」
「あれは。強引に、」
「洗いあいっこ。したよね」
「…………」
「拭いてよ。お願い」

 生まれて初めて綺麗だと思った、男の子の。

「寒くない? 冷たいのがイヤなら、レンジであたためて蒸しタオルにしてくるけど」
「平気。気持ちいいよ、花」

 カラダを丁寧に拭いていく。

 女の子と全然ちがうから。
 見つめるの、恥ずかしい。

「あー、そうか。わかっちゃった」
 ………?
「僕が君の泣き顔が好きな理由」