雨は好きだ。
色とりどりの傘を眺める事が出来るから。
弾いた小さな雫がポンポンと傘の上を跳ね回る音。

僕には雨と傘にまつわる大切な記憶がある。

高校の頃。
付き合っていた年上のカノジョに突然振られた。
もちろん落ち込んだよ。初めてのカノジョだったし。

いきなりの別れは雨の日の公園。
一人取り残されて情けないことに涙が込み上げた。

どんどん強くなっていく雨足。
あんまり人も来ない公園だったし、ずぶ濡れで泣いた。

「風邪ひくぞ」

ベンチに俯いて座っていた僕にかけられた声。
それはムスッとしていた。
同時に差し出された傘。

顔をあげたら、彼がいた。

彼、太郎はさっき振られたカノジョ……いや元カノの弟。

違う学校だけど元カノを通じて出会い仲良くなった。
無愛想でぶっきらぼう。どこか不器用な男。

でも友達になって分かった。
本当は優しくて案外面白い奴だ。

「ほら」
「……ありがと」

差し出されたのは目にも鮮やかな赤い傘。

「姉ちゃんの借りた。すまん」

振られたのを知ってか気まずそうに目をそらされた。

でもそれがすごく嬉しくて、精一杯の笑顔を作った。

「ははは、お前なかなか可愛い顔してるぞ」
「嘘つけ。ひどい顔してるだろう」

突然、彼の大きな手が僕の濡れぼそった髪を撫でた。

「だから言ってんだ……ほら、送ってやる」

手を離してくるりと背を向けて歩き出した彼を、僕は慌てて追いかける。

胸にふと、新しい疼きが生まれるのを感じていた。