知らない建物に入るなり、響平は中にいた年配の男性に声を掛けた。


「店長ごめん。奥の部屋貸してくんね?」


聞いたくせに、返事も待たずにズカズカと中へと入っていく。


男の人たちの笑い声。
煙草の煙。
ビリヤードの球がぶつかる音。


辿り着いた角部屋は、扉を閉めると、それら全てを遮断した。

これはまさか、美月ちゃんが言ってた、VIPルームってやつじゃ……。


同じフロアにあるのが嘘みたいに静かで、他のことは何も考えられなくなる。
 
響平が広くて柔らかそうなソファに腰を下ろすと、手を繋がれた私も、必然的に隣に座る格好になった。



「……なんで、国吉くんにあんなこと言ったの?」

「へえ。あいつ、クニヨシっていうのか」

「そうだけど……」


もしかして、少しでも嫉妬、とかしれくれたのかも。
とほのかな期待を抱く。

どういう意味だったの?という思いで見上げてみれば。