「雛子ちゃん、これ持ってあげる」
「あ、ここ座っていいよ」
「早く道開けろ。鬼頭先輩の妹だぞ」


今日も私はお兄ちゃんのせいで悪目立ち。


クラスメイトも上級生も下級生も、お兄ちゃんのことが怖いから過剰に媚びを売って持ち上げてくる。

冴えなくて物静かな私のことなんて、どうせみんながバカにしてるのに。




「雛子ちゃん」


学校からの帰り道。誰かに名前を呼ばれた。


またガラの悪い人たちかと思って警戒して振り向くと……。



「あ、ごめん。急に声かけて。えっと、俺のこと分かる?」

それは、制服を着た日比谷さんだった。



こうして顔を合わせるのは初めてだけど、何度か家の前でお兄ちゃんと話したりしてるのを見たことがあったから日比谷さんで間違いないと思う。


分かります、という意志表示で小さく頷くと日比谷さんは安心したように笑った。



「よかった。学校帰り?」

近くで見る日比谷さんは私の中にあった印象とは違った。


もっと乱暴に話す人だと思ってたし、ちゃんと学校に行ってる人だと思わなかったし。

なにより、日比谷さんは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれていた。