カルボキシルとの戦いで痛み分けとなった明日香たちは、王城に戻った。なんとか奪い返したプロリン城には、百戦錬磨の兵士たちを置いてある。

 明日香は行軍中に左腕の傷を十分手当てできていなかったせいか、帰ってくる途中から熱を出し、王城に着いても二日間寝込んでいた。

(うう……抗生剤のある世界が恋しい……)

 侍医に手当てをされ、日に日に回復してきてはいる。が、「日本の医療ならもっと早くよくなるのに」と思わずにはいられない明日香だった。

「あの軍師さまが、痛み分けとは」

「今までの勝利は偶然だったのでは?」

 板に乗せられて運ばれた明日香を見て、国民や兵士たちは不安に包まれていた。

 今まで重ねてきた勝利が、とても儚いものに思えたのだろう。

 とりあえず寝込んでいたおかげで、これらの声が耳に届くことがなかったのは、明日香にとって幸運だった。

 ジェイルは国務に追われ、四六時中というわけにはいかなかったが、可能な限り明日香の傍についていた。

「ごめんね……いつまた敵軍が襲ってくるかわからないのに」

 ベッドに横たわったまま、明日香はジェイルを見上げる。

「大丈夫だ。今は何も考えずに休め」

 ジェイルは優しく微笑み、明日香の額を撫でた。それだけで、彼女は安堵する。

 そんな彼女を見て、ジェイルは複雑そうな表情を浮かべていた。